少ない実験データから電子の世界を可視化する〜圧縮センシングによるフェルミ面再構成技術の開発〜(中西)

物質中の電子がどのように運動しているかを調べることは、新たな機能性材料や量子材料の理解につながります。本研究では、電子の運動状態を調べる実験において、圧縮センシングと呼ばれる技術を導入することで、従来よりもはるかに少ない測定データから電子の運動量分布とフェルミ面を高精度に再構成する手法を開発しました。

研究担当者

中西(大野) 義典(文化情報学部)

研究の背景

物質中の電子の運動状態は、その物質の電気伝導や磁性、超伝導などの性質を決定する重要な情報です。特に金属では、電子がどのように動き回れるかを示すフェルミ面と呼ばれる境界構造を知ることが重要となります。

電子の運動状態を調べる実験手法の一つにコンプトン散乱実験があります。しかし、測定データから三次元のフェルミ面を復元するためには、多くの方向から測定する必要があり、測定時間の長さが課題となっていました。

研究内容

本研究では、医療画像のデータ解析などで利用されている圧縮センシングの考え方をコンプトン散乱データ解析に応用しました。具体的には、電子の運動量分布はフェルミ面付近を除くと大部分が滑らかであるという特徴に着目し、generalized LASSOとよばれるスパース最適化手法を導入することで、限られた測定データから最も妥当な三次元電子状態を推定するアルゴリズムを構築しました。

明らかになったこと

体心立方格子構造を持つリチウム金属を対象に検証を行い、わずか14方向のコンプトン散乱データから三次元の電子運動量分布とフェルミ面を高精度に再構成できることを示しました。さらに、測定ノイズが存在する場合でもフェルミ面の特徴を安定して抽出できることを確認しました。これにより、従来は長時間を要していたコンプトン散乱実験をより効率的に実施できる可能性が示されました。今後は様々な電子材料や量子材料の研究への応用が期待されます。

論文情報

Otsuki, J., Yoshimi, K., Nakanishi-Ohno, Y., Sekania, M., Chioncel, L., & Mizumaki, M. (2026). Compressed Sensing of Compton Profiles for Fermi Surface Reconstruction: Concept and ImplementationJournal of the Physical Society of Japan95(7), 074707.