新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行により、外出自粛やマスク着用、オンライン授業など、私たちの生活は大きな影響を受けました。本研究では、東京都の高校生を対象とした縦断調査データを用いて、コロナ禍の前後における心理状態の変化を分析しました。

研究担当者
阿部真人(文化情報学部)
研究の背景
COVID-19の流行に伴う外出制限や学校閉鎖は、青少年の心理的状態に大きな影響を与えたと考えられています。その内容は様々で、心理的負担が増加したという報告がある一方、学校生活や社会活動で経験するストレスから一時的に解放されたことがメンタルヘルスに良い影響を与えたという報告もありました。しかし、これらの調査の多くがコロナ渦に開始されたものであり、COVID-19発生前の心理状態との比較は行われていませんでした。また、従来の心理調査では、複数の質問項目を単純に合計した得点を用いることが一般的でしたが、その方法では心理状態の複雑な変化を捉えることが困難という課題がありました。
研究内容
本研究では、東京都内の高校生84名を対象に、2019年7月から2021年9月まで毎月実施された心理健康調査(K6質問票)の回答を分析しました。分析には、脳神経科学分野で提案されたエネルギーランドスケープ解析を応用しました。この手法では、質問票の複数項目に基づいて心理状態を多次元的な状態の組み合わせとして捉え、それぞれの状態の安定性や状態間の移行のしやすさを可視化します。一部の参加者については脳MRIデータも用い、心理状態の変化と脳発達との関連についても調べました。
明らかになったこと
COVID-19発生前後の調査データを分析した結果、対象となった高校生集団は全体としてコロナ禍において心理的不調に陥りにくい傾向にありました。また、心理状態の特徴に基づいて参加者を二つのグループに分類したところ、心理状態が不安定なグループでは、前頭葉や側頭葉の一部において脳発達の変化がより大きいことが確認されました。これらの知見は、質問票の単純な合計得点だけではなく、心理状態の時間的変化や安定性に着目することの重要性を示しています。本研究で用いたエネルギーランドスケープ解析は、複雑な心理状態の変化をわかりやすく可視化する手法であり、今後のメンタルヘルス研究に新たな視点を提供することが期待されます。
論文情報
Tatematsu, D., Nakamura, N., Abe, M. S., Ishikawa, T., Ezaki, T., Cai, L., … & Iwami, S. (2026). Psychological distress among Japanese high school students during the COVID-19 pandemic: An energy landscape analysis. PLoS medicine, 23(1), e1004884.
